2025.9.15
スマホ向け:記事カテゴリ一覧を跳ばすプリキュア映画の新作『映画キミとアイドルプリキュア♪ お待たせ!キミに届けるキラッキライブ!』を見た! おじさんは感動して泣いちゃったので3行の感想を書いた。
伝説が神話に、神話が宗教になり、さらに宗教が、愛と思いやりのある人生の倫理哲学(リアルライフ)へと昇華しながら本来的な自己を取り戻す。不幸で彩られたその過程の閉じた循環(サイクル)からの解脱と幸福への静かな目覚めに思えた。
3行と思って書いたものの、3テーマ×3段落になってしまった。
【注意:内容はネタバレを含みます】
生命としての時間軸(つまり一生の長さ)の違いによる別れと喪失、喪失感情の暴走、その後の〝ロス〟への癒しと立ち直り(受容)は『トロピカル〜ジュ!プリキュア』の後半でも物語の主軸となる内容であった。今回の島での物語は、まさにトロプリを下敷きとし、その上に後輩プリキュアたちが活躍するという、一歩進んだ内容であったように感じた。
生き物の種類によって寿命が異なるというテーマは、そのまま『わんだふるぷりきゅあ!』にも通じる。いろはにも、こむぎとの別れの日がいつか訪れる。実家が動物病院である彼女がそれを想像できないことはない。むしろ日常的に目にしている光景であろう。わんプリ後半の主題がこうした生命の時間軸の差について語られていたこと、さらに並行して、いのちとエゴの葛藤が丁寧に描かれていたことを記憶している。
同じことは、スカイランド人やプニバード族の生態がやや謎めいている『ひろがるスカイ!プリキュア』にも言える。ソラとましろの関係もそうだし、本映画でのツバサとあげはの関係もそうだ。本編では一旦わかれたもののたちまち再開していた。しかしいつの日か、本当の別れが来る。それがまだ今ではないとしても、その無常は常に意識されうる。とはいえ、ツバサとあげはの信頼関係は、本編終了後よりもさらに進んでいるようだ。
本編でサスペンス的緊張感を盛り上げる石化現象は、地球温暖化による海水温の上昇の影響によるサンゴの白化をモチーフとしていることは間違いない(厳密には、サンゴが体の中に住まわせている褐虫藻という極小の生物が環境の変化(海水温上昇)によってサンゴから抜け出てしまい、褐虫藻の色素が不在になるためサンゴが白くなる)。
サンゴの寿命として提示される1000年という時間の長さは象徴的である。日本では平安時代後期から鎌倉時代にかけて、釈迦の入滅後1000年すると人も社会も乱れる暗黒時代に入るという思想が広まった。いわゆる末法の世である。島はいま暗黒時代に入ろうとしている。スーパーミラクルアイドルフェスがどのくらい前から実施されていたのかは定かではないが、10年おきに開催されるというこのイベントは、いうなれば歌と踊りによる「法要」が形を変えたものであろう。だが容赦無く災厄はやってくる。
本映画では災厄が訪れ、それがプリキュアによって祓われるまでがひとつのまとまりである。その「祓い」は、対決-勝利という構造ではなく、不信-和解である。サンゴの女神の手先として現れる大量のヤミクラゲが負の力として押し寄せる。序盤は実力行使で排除しつつも、その本質的問題解決は相互理解と救済でなければならない。物語の最後で石碑への付着物が剥がれて女神の偶像(=アイドル)が現れたことは、まさにアイドルを求めた女神自身がアイドルとして慈愛を振り撒く側に戻ったことを暗示している。そして石化した肉体の束縛から解放されたのか、より高次元の存在、あるいは如来の一種に近い者へとなっていく。「テラ」(terra:大地・地球)と女神アマスが1つになるってことは「アマテラス」にわけだ。女神が引き込もって巫女(あるいは「アメノウズメ」)のパフォーマンスで……という神話のエピソードが彷彿とされるが、本作において「女神が引きこもる」という点で使われる程度のプロットでのようだ。
本映画と、トロプリのストーリーにおける要点である寿命の差による別れと喪失は、神話の時代から使われる普遍的モチーフである。奇しくも、本映画の脚本担当の吉野弘幸氏は、トロプリの脚本にも参加している。(吉野氏が参加したプリキュア作品はトロプリと本作のみである)
エンディングロールの間、筆者が妄想したのは、本映画がトロプリのみのりん先輩(一之瀬 みのり:キュアパパイア)の考案したストーリーなのではないか、というメタ妄想である。映画のラストのライブパフォーマンスのステージに描かれた模様に、トロプリの貝のシンボル(エンブレム、クレスト)に似たビジュアルが使われているのもその刺激となった。
そこで帰宅しながら、ついつい下記のようなSSを空想してしまった。映画のエンディング後のポストクレジット・シーンとしてイメージである。まなつ(キュアサマー)の一人称視点で書かれている。ご笑覧いただけたら幸いである。
* * *
「……という話を考えたんだけど、どう?」
みのりん先輩がそう言い終える前に、わたしはテーブルに前のめりになって「トロピカってる〜!」と叫んでしまった。だって、さんごが女神だよ。トロピカってないわけないじゃん?
「まなつ、落ち着いて」とさんごも困り顔。「私が女神なんじゃなくて、珊瑚礁の島の女神だよ?」
今日も部室はちょっと蒸し暑い。頬杖をついていたローラが、指でテーブルをトントンと叩く。
「グランオーシャンの女王さまなら、推しが急にいなくなったからって引きこもったりしないわ。お別れもちょっと悲しい結末。でも、プリキュアが活躍するって筋書きは、嫌いじゃないわね」
満足なときでも、ローラはちょっとだけ何か言う。照れ隠しなのかな。みのりん先輩はノートのページをめくって、設定を見返し始めた。
「アイアイ島の雰囲気は、まなつの実家の南乃島をモデルにしたわ。ダイビングしたでしょ?」
「うん、スクーバね。またみんなで行きたいね! あすか先輩も誘って!」
楽しかったな、あの夏。人魚伝説の島にも行ってさ。あっ、そっか。人魚伝説を参考にして、みのりん先輩はサンゴの妖精の話を考えたのかな。昭和からアイドルがタイムスリップしてくるアイデアとか。さすがだなあと私は感心しきった。
「昭和のアイドルにも、先輩は詳しいんですか? 私のお母さんは、昭和の終わりくらい生まれだって」
さんごのその質問に、みのりん先輩の目が光った。
「想像よ。でもテレビの昭和特集で見たわ」
ローラは横目で先輩を見ている。目元は涼しげ。でも口元はニヤけている。
「で、その話でまたお芝居でもするってわけ? もっと大きいアイデアとかないの?」
そりゃそうだ、みのりん先輩はこのストーリーをどうするんだろう。小説にして賞に応募? 投稿サイトとかに出しちゃうとか?
「うん、それなんだけどね」と先輩はちょっとだけ伏目になっていった。
先輩は、ノートに挟まれていたチラシをすっと引き出して、表にしてテーブルに置いた。みんなが覗き込む。
「えっ、えっ、映画?!」
三人が一斉に声を出したから、みんなの声が混じってしまった。
「そうなの。映画の脚本化のアイデア募集だって。優秀作品は、ちゃんとした脚本家さんが脚本にして、アニメの映画になるんだって」
「すごいじゃない! わたし、声優デビューしてもいいわよ?」
ローラってば、次期女王の次は声優か。トロピカってるね。
「ホントに映画になったらすごい……。ちなみにこのストーリー、なんてタイトルなんですか?」
さんごもちょっと興奮気味っぽく言った。私もタイトルが気になってきた。
部屋が急にしーんとした。みのりん先輩は腕組みしてしまった。メガネが光を反射して真っ白だ。
「考え中。だからみんなの意見も聞きたいの。仮のタイトルはね……」
ドキドキしてきた。どんなタイトルなんだろう。
「千年の時空を超える話だからね。キラキラのアイドルがやってくる話だし。だから、お待たせ……」
先輩が顔を上げた。キラキラしてる。
「タイトルの案はね──、お待たせ! キミに届ける キラッキライブ!」
〈おわり〉